春の和歌で一番ドナルド・キーンが気に入っていたのは、
「またや見む交野のみ野の桜狩り花の雪散る春のあけぼの」
藤原俊成(新古今集 春下114)1114年(永久2年)から1204年(元久元年)
俊成82歳の歌である。
俊成の生没年は、1114年(永久2年)から1204年(元久元年)
ドナルド・キーンは、
”この歌によって描き出された情景は、悲しいまでに美しい―いや、あまりにも美し過ぎる。皇室のお狩場に曙光のさす中、桜の花が雪のように乱舞している。お狩場に赴いた宮廷人の目当ては、動物ではなくて桜の花。俊成はふと思うー「死ぬまでに、再びこんなに美しい光景にめぐり会えるだろうか」。答えがもちろん「否」であることを、俊成は内心悟っている。年老いた身の彼は、二度とこのように美しい春が体験できないことを知っているのである。しかし、仮に彼がもっと若かったとしても、答えはやなり「否」なのではないだろうか。・・・・”
と言う。
また、
”世界じゅうの詩人たちが春を愛でてきたが、日本の歌人ほど美しく春を詠みあげることはなかった。”
とも言っている。(『耳の痛くなる話』塩谷紘訳 新潮社)
写真は、桜の花がまさに雪のように乱舞した後である。ドナルド・キーンが愛でた風景であり、その場所でもある。